縄文人立話

縄文人A、Bのたわいのない立話。ちょっと立ち聞き。

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佐野さんとデザインと縄文人

A:いやあまだまだくすぶってるね。あれ。
B:なに? あれって。
A:あれだよあれ、昨日の土器を焼いた火の話じゃないよ。運動するあれ、あとほらスーパーのあれ。ほら、ピクニックみたいな。
B:もしかしたらオリンピックのこと!? なんでそれが出てこねえんだよ、確かにそう言う名前のスーパーあるけどさ。
A:そうそう。ベルギーの美術館がオリンピックのマークを真似して佐野さんがすげえ怒ってんだよな。
B:逆だよ! 東京オリンピックのマークがベルギーの美術館に酷似していてベルギー側のデザイナーが怒って、東京オリンピックのマークを作ったデザイナーの佐野さんを訴えるって言ってる話だろ。
A:あっそうだったの? あれ、おかしいな。
B:逆だよ! この段階で間違えてたらもうこの話はできねえだろ。
A:ははは、冗談だよ、冗談、縄談。縄文人の冗談で「縄談」。
B:なんか腹立つな、早く本題に入れよ!
A:あれは本当に佐野さんかわいそうだよな。オリンピックのマークだけじゃなくて今までの他の仕事まであら探しされてさ。
B:でも、サントリーのノベルティーで佐野さんがデザインしたトートバックはけっこうひどかったぜ。あれは言い逃れができないでしょ。
A:まあ、やっつけ仕事しちまったな。って感じだよな。
B:ああいうのが出てくるとデザイナーの仕事ってなんなのかって思っちゃうよな。
A:でも佐野さんも腹立ってると思うぜ、なんかに似ているとかパクリとかしまいにゃ「パクる」ことを「佐野る」とかどこの誰かもわからねえやつらに言われてさ、さらにデザインがヘタだとかしょうもねえガキにまで言われてさ、「お前だってお前の親のパクリじゃねえか。そっくりだぞ。とくに口元のだらしねえところとか」とか言いたくもなるよな。
B:佐野さんそんなこと言ってねえよ。
A:まあ佐野さんのことは置いておいてさ、おれら縄文人からしてみてもこの問題はなかなか重要なテーマなんだよな。
B:そうなの?
A:「オリジナリティ」って、縄文的だろ。
B:ぼくも縄文人だけど初めて聞いたよ。
A:おれたち縄文人はさ、同じものを作らなかったんだ。同じ土器でも土偶でも。同じように見えてもまったく同じ装飾は作らないんだ。「オリジナル」「唯一無二のもの」ということをすげえ大切にしていたんだよ。
B:えっそうだったの?
A:お前本当に縄文人か…。まさか弥生の二重スパイか!?
B:なんの二重だよ! 縄文人だよ!
A:もちろん、長い縄文時代の全ての時代と地域とは言わないけど、基本的なルールとして、まったく同じものは作らないようにしているんだ。
B:今みたいに著作権とか無い時代なのに?
A:パクリだとか権利とかそういう話じゃなくて、ある種のタブーになっていたんだ。おれもはっきりしたことは分からないんだけどね。ただ、そのことから推測するにひとつのものに宿る魂のようなものを信じていたんじゃないかと思うんだ。一つの魂にはオリジナルで唯一無二の入れ物が必要だっていう考えね。
B:なるほど。
A:それってすごく素直なことだと思わないか? 人と同じ服を着たくないとか、自分だけの何かを持っていたいとか、人としての重要な欲求のひとつとして、「オリジナリティ」とか「個性」っていうものがあるんだと思うんだよ。それがモノにまでおよんでいたってところがものすごいだろ。まさに「オリジナリティ」=「縄文」だろ。
B:そういうことね。
A:でもさ、そうは言ってもここ数千年で世界の人口はすげえ増えたじゃん。その間に何億人もの人たちが自分たちの欲求のままにオリジナルを追求すればとうぜん新しいデザインは底をつくわけじゃない。そうなったらどうなると思う?
B:「個性」は誰かの「パクリ」にしかならなくなっちゃう…? ヤバいね。
A:ひとつだけ方法があるんだ。「個性」を「パクリ」にしない方法が。
B:マジで! 佐野さんに教えてあげなきゃ!
A:「パクリ」を認めることなんだ。
B:げっ
A:認めるというより過去をしっかり引用することなんだ。何かに影響を受けることはまったく恥ずかしいことじゃない。そもそも物事は無垢な状態から生まれたりすることはないんだから何かの影響が、自分が作り出す個性に見え隠れしたって全然いいんだよ。
オリンピックだって美術館だって縄文時代に比べたら短いながらそれなりの歴史があるわけだからなにかしらの影響の上に現在があるんだから。縄文時代だって、土器や土偶のデザインを丹念に見ていくと地域と地域が影響し合って新しいものが出来上がっていくんだから。
B:佐野さんはどうすればよかったわけ?
A:今回の佐野さんがかわいそうなのは、佐野さんの東京オリンピックのマークは過去の東京オリンピックの引用だとすでに表明していることなんだ。普通、そうであればパクリとかの騒ぎにはならないはずなのに、充分にその意図が伝わる前に別の所から似ているデザインが出てきちゃった。そしたらトートバックで手抜き仕事したことがバレて個人攻撃が加速してさらにめんどくさいことになってきちゃった。そこにちょっと小器用なデザイナーが「僕も考えたオリンピックマークです」とちょっとわかりやすく「小良い」デザインをだしてきて、匿名の人たちが「こっちのほうが良い」とか無責任なことをいいだしてさらに混沌としてきちゃった。あんな、商店街ののれんのデザインみたいなのが本当にいいのかね。混乱の極みだね。
B:もうどうしようもないね。
A:どうしようもない。本来、おれら縄文人が大切にしてきた「個性」や「オリジナリティ」を担保するための「デザイン」や「装飾」が、パクリの代名詞のようになってしまったことが縄文人としては悲しいよ。
B:このコーナー第一回だけど、ずっとこんな感じの世を憂う感じなの?
A:いや、つぎはもっと軽くて明るめの話題がいいな。ほら、例のやぐっちゃんみたいなやつ、あんなのがいいな。
B:下世話過ぎるだろ!

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A:いったんこのコーナーのこの話は終わったんだけどさ、ちょっとまたへんなはなしになっちゃったんだよ。
B:どうしたの?またなんかのパクリ疑惑が出てきたの?
A:そうじゃないんだけどさ、あのオリンピックマークは「前回の東京オリンピックの引用だ」って言ったじゃない。佐野さんがそう言っていたんだよ。そういうコンセプトだって。そこからこのマークを考えたんだって。
B:うん、言ってた。だからパクリじゃないって主張があったと思うんだけど
A:そしたら実はあのマークは佐野さんの当初の案から変わっていて、当初の案は商標登録手続の中で若干の類似性があるマークが見つかりオリンピックの組織委員会の要望で今の案に変更されたんだって説明とともに、佐野さんの当初の案が公表されたんだ。
B:ふーん。じゃあパクリじゃないじゃない。
A:そう。そういうことを組織委員会はいいたいんだけど…、おれがそりゃ無いよって思ったのは、佐野さんの当初の案はどうも「前回の東京オリンピック」の引用じゃなさそうなんだ。現行案のマークは大きな日の丸を意識するような丸みが両サイドの三角についていて、オリンピックマークの映像もその日の丸を意識するような仕上がりになっていたんだけど、当初のプレゼン案はどうも違うっぽいんだ。
B:でもパクリじゃないって証明になるからいいんじゃない。見るとベルギーのやつと全然印象違うし。
A:いーや、これってパクリよりももっと根深いと言うかしょうもないというか情けない話だよ。
B:なんで? 問題になってるのはパクリだろ。
A:ったく、だからお前は弥生だっていってんの。
B:はっ? 弥生じゃねーし! パクってねえなら問題無いだろうが!
A:おれがいいたいのはパクるとか、何かに似ているとかそういうことよりももっと重要なことなの!
B:だからなんだよ!
A:このオリンピックマークには魂らしきものが何にもこもってなかったってことが証明されちまったってことなんだよ! デザインとかカッコいいとかまねたとか似てるとか、そういうことの前に、大前提としてこのオリンピックに込めた願いとか思いとか、そういうもののほうが全然重要なんだよ!
B:お、おう。
A:おれたち縄文人が現代のデザインがどうのとか、別になんか思ってても言わないよ。とにかく佐野さんが当初の案に何を込めて作ったのかは分からないよ。でも現行のマークに込められていると言っていたことは登録商標の都合で後からつけられたコンセプトじゃないか。登録商標の都合だぜ。馬鹿野郎だよ。
B:確かに。デザインや装飾はそこに込められた魂のためだってこの間話してたもんな。
A:そーなのさ。そりゃ、ノベルティのトートバックに魂込めろって言ってもしょうがないかもしれないけど、オリンピックだぜ。オリンピック。組織委員会も組織委員会だよ。マークに込められた思いが登録商標の都合で左右されていたんだとしたら…、中小企業のマーク考えてるんじゃねえんだよ!
B:怒ってる。
A:怒ってるよ!